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六文銭と六ペンス

こんにちは!コーディネーターの篠田です。
最近すっかり冷え込んで参りましたね。巣ごもりしている間に冬が訪れていて驚きです。

突然悲しいニュースで申し訳ないのですが、つい先日、我が家の愛ハムスターであるぷに子が2歳2か月で亡くなりました。最期は病気で満身創痍、精一杯生きてくれたことに心から感謝です。そんなぷに子の弔いのため、業者さんにお願いをして自宅で小さなセレモニーを行ったのですが、その際に六文銭(と守り刀)まで用意してくださって、棺に納めお見送りをしました。

冥銭のおはなし

六文銭といえば「三途の川の渡し賃」といわれていますが、ギリシア神話においても、冥界へいくには河(ステュクス河)を渡らねばならず、さらには渡し賃が必要なのだそうです。そのため、古代ギリシアでは亡くなった方のまぶたの上や口の中に硬貨(1オボロス銅貨)を添えて弔う習慣があったとのこと。どちらも無賃者にはペナルティがあり、三途の川では奪衣婆(だつえば)に服をはぎ取られ、ステュクス河では200年渡ることが許されず後回しにされます。(そのあいだ周辺を彷徨う)世知辛いですね。

まったく異なる文化圏であるにも関わらず、同じような風習があり面白いなあと思いながら、「六」といえば6ペンスがイギリスではラッキーアイテムだな!と思い出し、なにか関係があるのか!?と調べてみましたが、いまいち有力な情報は得られませんでした。(きっと偶然ですね)

6ペンスコインとは

6ペンスコインは、イギリスで1551年から1971年まで製造されていたコインだそうなのですが、イギリスの童謡マザー・グースに出てくるサムシングフォーの歌の詩が由来となり(定かではない)、欧米では花嫁さんのラッキーアイテムとして今でも親しまれています。

(日本でも結婚式におけるサムシングフォーは有名ですね!)

サムシングフォーの詩はこちら。

 

Something Old

なにかひとつ古いもの

Something New

なにかひとつ新しいもの

Something Borrowed

なにかひとつ借りたもの

Something Blue

なにかひとつ青いもの

and a sixpence in her shoe

そして靴の中には6ペンス銀貨を

 

この6ペンスコインには「経済的にも精神的にも満たされ、豊かで幸せな人生をもたらす。」という願いが込められているそうです。

※ちなみにマザー・グースには「6ペンスの唄」("Sing a song of sixpence")という唄もあり、かわいいかわいい旋律に「24羽のクロツグミがパイにされて焼かれちゃった☆」という少しゾっとする詩がのせられています。

小説「月と六ペンス」

そんな幸せの象徴である6ペンスコインですが、イギリスの小説家サマセット・モームも自身の小説に”六ペンス”を使用していますね。

大学生のころ、「なんかタイトルがおしゃれ」という理由で手にとった「月と六ペンス」でしたが、読み進めるほどにどんどん引き込まれて夢中になって読んだことを覚えています。

画家ポール・ゴーギャンをモデルにした本作は、ゴーギャンの人生そのままに、安定した家庭と仕事を捨て、芸術的創造欲にとりつかれていく“ストリックランド”という男の生涯を、友人の視点から語る一人称形式の小説です。

私は中野好夫氏の翻訳で読みましたが、訳者あとがきにはこうあります。

 

「「月」は、人間をある意味での狂気に導く芸術的創造情熱を指すものであり、「六ペンス」は、ストリックランドが弊履のごとくかなぐり捨てたくだらない世俗的因襲、絆等を指したものであるらしい。」

 

参照:William Somerset Maugham(1919)The Moon and Sixpence(中野好夫(訳)(1995)月と六ペンス 新潮社 P368)

 

なんと、ラッキーアイテムとして親しまれている六ペンスを「くだらない世俗的因襲、絆」の象徴とするなんて、なんとも皮肉っぽい!(好きです)

名著ゆえ複数の翻訳本が出版されているのですが、実はどの日本語訳も評判が良い作品です。原文が和訳しやすい英語なのか?は分かりませんが(私にはとてもそう思えませんが)、ぜひご興味のある方は読んでみてください。

さいごに

愛ハムの葬儀のはなしから、六文銭、6ペンス硬貨、果てはサマセット・モームまで、とりとめもない私の脳内思考が露呈してお恥ずかしいかぎりですが、最後までお付き合いくださりありがとうございました。

何はともあれ、ぷに子が幸せなハム生であったことを祈るばかりです。
こんなご時世ですが、みなさまも素敵な日々をお過ごしください!