コラム詳細

邦題の『の』の法則

営業部の田中です。
映画の話題が続きますが、今回は映画のタイトルについて取り上げたいと思います。

「『の』の法則」をご存知でしょうか。
長年ジブリ作品を支えてきた日本テレビの奥田誠治プロデューサーが提唱した法則で、宮崎駿監督作品のタイトルには「の」の字が入っていることが多く、「の」が入っているとヒットしやすいそうです。

参考:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%80%8C%E3%81%

   AE%E3%80%8D%E3%81%AE%E6%B3%95%E5%89%87

実際、スタジオジブリ作品、特に宮崎駿監督作品のタイトルのほとんどがこの法則に当てはまります。

風の谷のナウシカ
天空の城ラピュタ
となりのトトロ
火垂るの墓
魔女の宅急便
紅の豚
もののけ姫……はイレギュラーなパターンですね。
千と千尋の神隠し
猫の恩返し
ハウルの動く城
崖の上のポニョ
借りぐらしのアリエッティ
かぐや姫の物語
思い出のマーニー

どれも大ヒットしました。

ディズニー・ピクサー作品の邦題にも「『の』の法則」のタイトルが多くあります。

「『の』の法則」が発見されるより前に付けられたタイトルにも「○○の××」というパターンが多く、どうやらかなり昔から日本で好まれているようです。

さらに興味深いのは、このパターンの邦題は、原題を直訳せず、異なる意味の邦題を付けたものが多い、という点です。

つまり、原題の意味を変えてまでも「『の』の法則」にのっとった邦題が付けられている、それほどまでに「○○の××」というタイトルが好まれている、ということです。

以下、私が特に興味深いと思った邦題と原題を並べて記載し、解説を加えていきます。

 

くまのプーさん/Winnie the Pooh

言わずと知れたタイトルですが、本作の登場人物であり、原作者アラン・アレクサンダー・ミルンの息子であるクリストファー・ロビンが、自分のくまのぬいぐるみに付けた名前が「Winnie-the-Pooh」で、「Winnie」は当時ロンドン動物園で飼育されていた熊の名前だそうです。「the-Pooh」の部分は、プーさんが「プーっと息を吹いてハエを追い払ったことから『プー』と呼ばれるようになった」と作中で語られています。つまり、「Winnie-the-Pooh」の和訳は「プーっと吹くウィニー」ということになります(似たようなタイトルの漫画があったような気がしますが……)。とにかく、名前の本体は「Winnie」で、「Pooh」はあだ名のようなものだということです。にもかかわらず、「Winnie」はまるっと無視するという大胆な邦題。原書の作中では「Pooh Bear」と呼ばれているシーンが多いので、これを「くまのプーさん」と訳し、タイトルとしたのでしょうね。「プーさん」という呼称はたいへんかわいらしく親しみが持てますし、「くまのプー」ではなく「くまのプー“さん”」としたところもすてきです。これは翻訳家の石井桃子さんによる邦題のようです。

 

ふしぎの国のアリス/Alice in Wonderland

初訳は「アリス物語」というタイトルだったそうですが、その後複数の訳書を経て「不思議の国のアリス」というタイトルが定着したようです。この邦題が定着したのは、やはり「『の』の法則」が好まれてきたからではないでしょうか。「ふしぎ“な”国のアリス」というタイトルでは定着しなかったかもしれませんね。

 

眠れる森の美女/Sleeping Beauty

直訳すると「眠っている美女」です。いまいちですね。「茨姫」「眠り姫」といった訳題もありますが、「眠れる森の美女」は、「眠っている」を古典文法の「眠れる」とし、さらに原題にはない「森の」という言葉を付け足したことで、流れるような美しい響きを持つばかりでなく、うっそうとした深い森に閉ざされた古城に昏々と眠り続ける美女をも想起させる、秀逸な邦題だと思います。「眠れる美女」ではなんだか物足りないので、やはり「『の』の法則」が活きていますね。これは翻訳家の村松潔さんによる訳題のようです。

 

ビアンカの大冒険/The Rescuers

直訳すると「救助者たち」です。ぴんとこないですね。国際救助救援協会のメンバーであるネズミのミス・ビアンカが、協会に助けを求めた少女を救出するというストーリーを端的にあらわした邦題です。わかりやすいですし、観てみたいと思わせるワクワク感があります。

 

プリンセスと魔法のキス/The Princess and the Frog

直訳すると「姫と蛙」です。ひどいですね。これも「眠れる森の美女」における「森の」と同じく、原題にはない「魔法の」という言葉を入れることで「『の』の法則」が成り立っています。さらに「姫」ではなく「プリンセス」に、「蛙」ではなく「キス」に変えることで、マジカルでファンタジックな印象の邦題に仕上がっています。「姫と蛙」とは雲泥の差ですね。邦題の重要性をひしひしと感じます。

 

塔の上のラプンツェル/Tangled

「Tangled」には「絡まった、もつれた」あるいは「混乱した、複雑な、ややこしい」といった意味があり、一言で表すなら「ぐちゃぐちゃ」でしょうか。グリム童話の原題は「Rapunzel(ラプンツェル)」なのですが、どうやらターゲットを男の子にも広げるため、プリンセス要素を控えめにする意図があってタイトルが変更されたようです。邦題は、「ラプンツェル」の名前は残し、「塔の上の」が追加されています。「の」が入ることでリズム感が生まれますね。

スタジオジブリの「崖の上のポニョ」の公開が2008年、「塔の上のラプンツェル」がその2年後の2010年公開なので、もしかすると「塔の上のラプンツェル」はポニョに着想を得て、あるいはポニョにあやかって付けられた邦題なのでは?と思っているのですが、真偽は不明です。

中には、ヒットを狙って意図的に「『の』の法則」を活用しているタイトルもあるかもしれないですね。

長くなってしまったので、今回はここまで。次回、この続きを書きたいと思います。