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邦題の『の』の法則(その2)

営業部の田中です。
今回は、前回のコラムに引き続き、ディズニー・ピクサー映画の邦題における『の』の法則を見ていきたいと思います。

前回のコラム:https://www.icos.co.jp/column/20200406.html

 

アナと雪の女王/Frozen

原題「Frozen」は「freeze」の過去分詞形で、「凍った(状態の)」という意味です。「塔の上のラプンツェル」の原題「Tangled」も「絡まりもつれた状態」を意味しますが、日本語で「状態」をあらわす言葉がタイトルになる例は思い当たらないので、興味深く感じます。「アナと雪の女王」は、アンデルセン童話「雪の女王」の内容とはまったく異なりますが、日本でなじみ深い「雪の女王」をタイトルに入れたことでとっつきやすくなるとともに、「『の』の法則」にもあてはまるタイトルになっています。加えて、本作は「アナ雪」という略称で親しまれたのも大きな特徴です。今のところ、「アナ雪」以外に略称が定着したディズニー・ピクサー映画はないと思いますが、近年の日本では「3~4文字に省略できる」というのがヒットするネーミングの絶対条件と言っていいほど、あらゆる作品名が略称で呼ばれていますので、「『の』の法則」に加えて「略称の法則」も意識した邦題が今後増えるのではないかと予想しています。

 

モアナと伝説の海/Moana

「塔の上のラプンツェル/Tangled」以降に公開されたディズニー・ピクサー映画の原題は1単語のものがほとんどです。この作品も、主人公の少女の名前「Moana」がタイトルとなっていますが、これではどんな映画なのかまったくわかりません。邦題は「伝説の海」と付くことで、「『の』の法則」によるリズム感とともに、ワクワク感も生まれていると思います。

 

レミーのおいしいレストラン/Ratatouille

これも1単語のタイトルです。原題「Ratatouille」は南フランスの野菜煮込み料理「ラタトゥイユ」のことで、ネズミ(Rat)のレミーが作る、物語の鍵となる料理です。ダジャレや言葉遊びを翻訳する際には、非常に頭を悩ませるものなので、翻訳者泣かせのタイトルと言えます。本作の邦題は、思い切ってラタトゥイユの要素を排除し、映画の内容に則したまったく新しいタイトルをクリエイトしたパターンですね。リズム感が良く、絵本のようなかわいらしさがあります。

 

カールじいさんの空飛ぶ家/Up

1単語のタイトルが続きます。あまりにもシンプルすぎる原題に驚きます。「Up」だけでは何の情報も得られないのに対し、邦題は「カールという名前のお爺さんの家が空を飛ぶ」ということが読み取れます。とてもわかりやすいですね。本作に限らず、日本語タイトルと比較して、英語タイトルは内容が推測できないものが多いように思いますが、海外の方はあまりタイトルで「観てみよう」と判断しないのでしょうか。日本では、作品概要をそのままタイトルにしたような、説明的で長いタイトルが特にラノベ(ライトノベル)で流行っていますし、「タイトルから作品の内容が推測できる」ことが重視される文化なのかもしれません。

 

メリダとおそろしの森/Brave

これもカールじいさんと同じパターンです。原題「Brave」は「勇気」の意味で、「勇気をテーマにした作品なのだろうな」ということしか推測できませんが、邦題からは「メリダという主人公がおそろしの森に迷い込むのだろうな」ということが読み取れます。「『の』の法則」は、「説明的なタイトル」を好む日本人の性に合っているのかもしれません。

 

ここまで、「の」が入っているとヒットしやすいという「『の』の法則」にのっとった数々のタイトルを見てきましたが、「の」が付くタイトルは

・リズム感が心地よい

・作品内容がわかりやすい

・なんだかワクワクしたり、かわいかったりする

ということがわかりました。

これがヒットするタイトルの秘密なのではないでしょうか。

 

また、原題を直訳しても良い邦訳にはならないことが分かりました。

翻訳家の方々には、今後もぜひ、「邦題がこのタイトルだったからこそ日本でヒットした」と言えるような、クリエイティブでチャレンジングな邦題を生み出していただきたいです。