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インドの言語:多様性とデジタル化

『相手が理解できる言葉で話せば、それは頭で理解される。相手の言葉で話しかければ、それは心に響くのだ。』—ネルソン・マンデラ

広大な大地に多種多様な言語を抱えるインドにおいて、近年インターネットのローカライズ(各州のローカル言語化)が急速に求められています。

2010年から2013年に実施された『インド言語調査(Linguistic Survey of India)』によると、インドには共通語が2言語(英語とヒンディー語)、公用語が22言語、主要言語は122言語が存在するということです。ヒンディー語(41.0%)が最も多く話され、ベンガル語(8.1%)、テルグ語(7.2%)、マラーティー語(7.0%)、タミル語(5.9%)、ウルドゥー語(5.0%)などが続きます。

海外では、インド人は英語に強いと考えられていますが、実は英語の知識を持つインターネットユーザーは人口の10%未満です。つまり、インド人の90%は日常生活で英語を使用していません。

インドでインターネットが普及しはじめた1995年、人々は世界で起こっているニュースや情報を得ること、そしてオンライン上でのコミュニケーションに興味を持ち始めました。

英語が分かる人々は、WhatsAppによるコミュニケーションやグーグルサーチ、YouTubeをすぐに使いこなしました。しかしながら、インド人のインターネットユーザーが1億人を超えたころから、インド言語による情報があまりにも少ないということが露呈してきました。

ローカル言語で書かれたウェブサイトは誤った情報が多く、人々が自分の言語で発言できるプラットフォームがほとんど存在しません。

インドのインターネット事情のもう一つの側面は、多くの人々がパソコンではなく携帯電話でインターネットにアクセスすることです。そのため、インドマーケットは携帯電話ユーザーに焦点を当てた戦略を練ってきました。

W3C India officeのクルカルニ氏は、「ローカル言語のインターネットユーザーが毎年47%増加している。ローカリゼーションはインドのデジタル革命の要である」と述べています。

さらに、GoogleやMicrosoftのような大企業もインドのローカル言語に注目しています。現在、Google検索やGoogle翻訳はインドの9以上の言語で使用が可能です。また、MicrosoftはAIとDeep Learningを活用し、あらゆるウェブサイトの英語からヒンディー語、ベンガル語、タミル語への機械翻訳を提供しています。ローカル言語でインターネットを使用できるようになったことは、インド人にとって大きなインパクトがありました。



図1:Internet User Base in India (KPMG in India’s Analysis, 2017)

図1を見ながら、インドにおけるインターネットユーザーの推移を考えてみましょう。1990年半ば、オンラインコンテンツの大部分は英語でした。その後2011年にはローカル言語のユーザーが42%に伸びています。2016年になり、ローカル言語ユーザーの数が英語ユーザーを逆転しました。今後2021年に向けて、このギャップはさらに拡大していくことが予想されます。

インドだけにとどまらず、世界的にインターネットのローカル言語化が進み、オンライン上の英語の優位性が衰えてきているとも言われています。

ローカルこそがカギである

今こそ、インドの大半の人口が理解できない英語から多種多様なインド言語にローカライズしていく、変化の時です。『言語の民主化』により、今後もインドのITテクノロジーは発展していくことでしょう。インフラの向上が環境問題を解決へと導くのと同様に、インドのデジタル化は、言語のローカリゼーションによって支えられていくのではないでしょうか。