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翻訳における「仕向地」とは?ースペイン語・ポルトガル語にみる同じ言語でも異なる伝え方ー

製品やサービスをグローバル展開する際、多言語への翻訳は欠かせません。
しかし、ただ翻訳するだけでは、現地のユーザーにきちんと伝わらない場合があります。
ここで重要になるのが、「仕向地」という考え方です。

仕向地とは?

仕向地とは、「その翻訳が実際に使われる国や地域」を指します。
同じ言語でも、国が違えば使われる単語や表現、ニュアンスは異なります。
そのため、翻訳を行う際には仕向地を明確にした上で現地に合った言葉選びや表現を行う必要があります。
この「仕向地」による違いが特に顕著なのがスペイン語ポルトガル語です。

スペイン語:20カ国以上で話される言語

スペイン語は、世界で5億人近くの人々が話す国際的な言語です。
スペイン本国のほか、中南米のメキシコ、アルゼンチン、チリ、コロンビアなど約20カ国以上で公用語とされています。

「スペイン語」と一口に言っても、スペイン(ヨーロッパ)で使われるスペイン語と、南米諸国で使われるスペイン語では、語彙・文法・表現・発音などに違いがあるのです。

翻訳会社ではスペイン本国で使用されているスペイン語を「欧州向けスペイン語」、中南米で使用されているスペイン語を「南米向けスペイン語」と仕向地を添えて区別することがあります。

「欧州向けスペイン語」と「南米向けスペイン語」の違い

語彙の違いは一例にすぎませんが、例えば「パソコン」は欧州向けスペイン語では「ordenador」、南米向けスペイン語では「computadora」と異なります。

「車」は欧州向けスペイン語では「coche」なのに対し、南米向けスペイン語では「auto」や「carro」が使われています。

更に発音にも違いがあります。
スペインでは 「c」「z」を英語の「th」のように発音しますが、南米では発音が比較的フラットで「c」や「z」も「s」と同じ音になります。



仮に、スペイン人の読者向けの文書に「computadora(コンピュータ)」と書いても意味は通じますが、少し違和感があります。
逆に、メキシコ人に「ordenador」と言うと、「それって何?」と意味が伝わらないこともあるのです。



つまり、どの国のスペイン語話者に向けたコンテンツなのか、「仕向地」を明確にしないと、伝わり方が不自然になったり、誤解されたりするリスクがあります。

ポルトガル語:話者人口の約8割はブラジル人

ポルトガル語は、主にポルトガルとブラジルをはじめ、アフリカやアジアの一部地域などで話されています。ポルトガル本土の人口は約1,000万人と比較的少ないものの、約2億人の人口を誇るブラジルで公用語として使われているため、ポルトガル語の話者人口は世界で約2億6,000万人以上にのぼると言われています。

世界中のポルトガル語話者のうち、およそ81%(約2億人)がブラジルに集中しており、残りの約5,000万人がポルトガル本国や旧ポルトガル植民地の国々に分布しています。
ポルトガル語は複数の大陸にまたがって使われている数少ない言語のひとつなのです。

ポルトガル本国で使用されているポルトガル語を「欧州向けポルトガル語」、ブラジルで使用されているポルトガル語を「南米向けポルトガル語」と表現し区別します。

「欧州向けポルトガル語」と「南米向けポルトガル語」の違い

ポルトガル語は、主にポルトガルとブラジルで使われていますが、この2カ国では同じポルトガル語とは思えないほど違いがあります。

単語や文法の違いはもちろんですが、発音の違いはかなり特徴的です。
下記は欧州向けと南米向けの違いを表にしたものです。

翻訳は「誰に届けるか」で決まる

同じスペイン語でも仕向地がどこかによって最適な翻訳は異なります。
ポルトガル語も、ブラジルとポルトガル本土ではまるで別の言語のように感じられるのです。
だからこそ、翻訳プロジェクトでは「どの国・地域に向けた翻訳なのか(=仕向地)」を事前に明確にすることが極めて重要です。

仕向地を正確に把握し、それに応じた翻訳を行うことが、世界中のユーザーに信頼される第一歩です。